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労働者性とは?判断基準をわかりやすく解説

  • 執筆者の写真: あたけ
    あたけ
  • 10月24日
  • 読了時間: 5分

働く人はすべて「労働者」?―実はそうとは限りません

労働保険や社会保険の加入において、「労働者に該当するかどうか」は非常に重要な判断です。この「労働者性」の判断を誤ると、思わぬトラブルや保険給付の対象外になるケースもあります。

「家族で手伝っているだけだから保険はいらない」「業務委託契約だから雇用ではない」――こうした考え方は、実務の現場でよく見られますが、法律上の“労働者”に当たるかどうかは契約書ではなく、実際の働き方(実態)で判断されます。

今回は、労働者性の基本的な考え方と、よく質問のある「親族が働く場合」の労災・雇用保険の扱いについて整理してみます。


労働者の定義とは

労働基準法第9条では、労働者を次のように定義しています。

「職業の種類を問わず、事業または事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」

つまり、

  • 指揮命令のもとに働いているか

  • 対価として賃金を受け取っているかこの2点が大きなポイントです。

たとえ「請負契約」「業務委託契約」として契約書を交わしていても、実態として会社の指示で働き、時間に拘束されているような場合は「労働者」と判断されることがあります。


労働者性の判断基準(厚生労働省通達より)

労働者性を判断する際には、以下のような要素を総合的に見ていきます。

  1. 指揮命令関係の有無 仕事の進め方、勤務時間、場所などについて会社の指示を受けているか。 

    →「何時に出勤して」「この現場へ行って」と指示を受けていれば指揮命令あり。

  2. 代替性の有無 自分の代わりに他の人へ仕事を任せられるか。

     →自由に代替できないなら「労働者」と判断されやすい。

  3. 報酬の労務対償性 時間や日給で支払われているか、それとも成果に応じた報酬か。  →時間給・月給制であれば労務の対価とみなされやすい。

  4. 事業者性の有無 機械や材料、経費を自分で負担しているか。

     →会社の備品を使い、経費も会社負担なら「労働者性」が強い。

  5. 専属性の程度 他社の仕事を自由にできるかどうか。

     →他で働くことが難しい場合は、雇用関係とみなされることが多い。

これらを「総合的に」判断するのが実務上の考え方です。どれか一つだけで決まるわけではありません。


よくある相談①:同居親族の場合の労災・雇用保険加入

「家族だから対象外」と考えられがちなケースです。たとえば、父親が代表を務める会社で同居している息子が働いている場合、原則として労働保険上の“労働者”とはみなされません。

これは「家族内の扶助関係」と見なされるためです。ただし、次のような場合は例外的に労働者性が認められることがあります。

  • 他の従業員と同様に勤務時間・出勤簿・給与計算が行われている

  • 業務内容や命令系統が他の社員と変わらない

  • 給与が事業主の都合ではなく、明確な基準で支払われている

このように、“同居親族でも労働者性が認められる実態”がある場合には、労災・雇用保険ともに加入が認められるケースもあります。


よくある相談②:別居親族の場合の扱い

別居している親族の場合は、同居に比べて「労働者性あり」と判断されやすくなります。生活の独立性が高く、事業主の指揮命令のもとで勤務していれば、通常の従業員と同様に扱われます。

ただし注意点として、

  • 形式的に給与を支払っているだけ

  • 実際には働いていない(名義だけ)という場合には、「実態なし」として否認されるリスクがあります。

帳簿上の処理だけでなく、勤務記録や賃金の支払い実績を明確にしておくことが大切です。


業務委託・個人事業との違いにも注意

近年は「業務委託」や「請負契約」という形式で働く人も増えています。しかし、契約書上は「委託」でも、実際の働き方が会社の指揮命令下にある場合には、労働者性が認められる(=雇用関係とみなされる)可能性があります。

特に次のようなケースは注意が必要です。

  • 会社の制服や名刺を使っている

  • 出退勤時刻が指定されている

  • 仕事の内容・順序を会社が決めている

  • 他の仕事を自由にできない

こうした場合、「名ばかり業務委託」と判断されるおそれがあります。もしトラブルが起きれば、未払い残業代や社会保険の遡及加入など、大きなリスクを抱えることになります。


実務上のポイントと注意点

労働者性の判断は、契約書よりも「実態」重視です。したがって、形式上は親族・委託・請負であっても、日々の働き方を見れば労働者と判断されることがあります。

事業主側としては、次の点を整理しておくと安心です。

  • 出勤簿・給与台帳・業務日報などの記録を整備

  • 賃金支払いの基準を明確化

  • 雇用契約・委託契約を実態に合わせて見直す

  • 家族・親族であっても「他の従業員と同様に扱っている」場合は加入手続を検討

特に労災保険については、加入の有無で万が一の補償が大きく異なります。「親族だから対象外」と思い込まず、一度確認することをおすすめします。


会社を守るためにも、そして働く人を守るためにも、「労働者性の確認」は非常に重要です。


ご相談ください

「親族を手伝わせたいが、保険加入はどうすべきか」「業務委託で契約しているが雇用ではないか心配」そんなお悩みがあれば、実態を踏まえて整理するお手伝いが可能です。

労災・雇用保険の加入判断、契約書の見直しなど、気になる点があればお気軽にご相談ください。

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