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小規模企業こそ定年制が必要~『ずるずる雇用』から脱却するための制度設計~

執筆者の写真: あたけ
あたけ
9月3日
読了時間: 8分

自社の定年年齢をご存じでしょうか。


そもそも、会社に就業規則はありますか。


「今は問題なく働いてくれているから、そのうち考えればよい」

「人数が少ない会社なので、細かい制度までは必要ない」


このように定年や継続雇用のルールを決めないままにしていると、やがて会社側も従業員側も、雇用の終わりが見えない状態になってしまいます。


気づいたときには、

・いつまで雇用が続くのか分からない

・年齢や体力を踏まえて働き方を見直したい

・後任を採用したいが、時期を決められない

・会社から退職の話を切り出しにくい

といった問題が生じます。


特に人間関係が近く、個別対応になりやすい小規模企業ほど、定年制と継続雇用制度をあらかじめ整えておくことが重要です。


定年に関する法律上のルール

定年を設ける場合、その年齢を60歳未満にすることはできません。

また、定年を65歳未満に設定している会社は、次のいずれかの「高年齢者雇用確保措置」を講じる必要があります。

■定年を65歳以上に引き上げる

■希望者全員を対象とする65歳までの継続雇用制度を導入する

■定年制を廃止する

つまり、定年を60歳と定めること自体は可能ですが、その場合には、本人が希望すれば原則として65歳まで働ける仕組みを併せて設けなければなりません。


さらに、70歳までの就業機会を確保することについても、現在は事業主の努力義務とされています。


定年がないと「雇用の区切り」がなくなる

期間の定めのない労働契約には、契約満了日がありません。

さらに定年制も設けていなければ、従業員本人から退職の申出がない限り、年齢だけを理由として当然に雇用が終了することはありません。


会社が「そろそろ退職してもらいたい」と考えても、定年による退職として扱うことはできず、退職勧奨や解雇などを検討せざるを得なくなります。


しかし、退職勧奨には本人の同意が必要です。解雇についても、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が求められます。


「高齢になったから」「後任を採用したいから」という事情だけで、会社が一方的に雇用を終了できるわけではありません。


定年制がないということは、従業員に長く働いてもらえるというメリットがある一方で、会社が雇用を見直すための明確な節目もなくなるということです。


小規模企業が陥りやすい「ずるずる雇用」

小規模企業では、経営者と従業員の距離が近いため、雇用管理が個人間の関係に左右されやすい傾向があります。


問題なく勤務している間は、定年を決めなくても特に困らないかもしれません。


しかし、年齢とともに業務遂行能力や健康状態が変化したとき、会社が本人にどのように話をすればよいのか分からず、結論を先送りしてしまうことがあります。


従業員側も、

「会社から何も言われないので、まだ働けるのだろう」

「いつまで働けるのか分からないが、自分から聞きにくい」

という状態になります。


こうして双方が明確な話をしないまま、何となく雇用だけが続くのが「ずるずる雇用」です。

雇用の見通しが立たなければ、後任者の採用や育成、業務の引継ぎも進めにくくなります。


解決策の一例 「定年制+定年後の継続雇用制度」

制度設計の一例として、次のような形が考えられます。

年齢

雇用形態

60歳まで

期間の定めのない雇用

60歳から65歳まで

1年ごとの有期契約による継続雇用

65歳以降

会社の方針に基づき継続雇用の可否を決定

ステップ1 定年年齢を設定する

例えば、就業規則に次のような定年条項を設けます。

『従業員の定年は満60歳とし、満60歳に達した日の属する月の末日をもって退職とする。』

これにより、60歳という明確な雇用上の区切りができます。


ただし、60歳定年を採用する場合には、希望者全員を原則として65歳まで継続雇用する制度も必要です。


ステップ2 65歳まで継続雇用する

定年後、本人が引き続き勤務を希望する場合は、1年ごとの有期労働契約を締結し、原則として65歳まで雇用を継続します。

定年前と同じ労働条件をそのまま維持しなければならないわけではありません。


定年後の業務内容や責任、勤務日数などを踏まえ、次のような条件を個別に定めることができます。

・契約期間

・就業場所と業務内容

・勤務日数と勤務時間

・賃金

・契約更新の有無

・契約更新の判断基準

・更新回数または通算契約期間の上限

※2024年4月以降、有期労働契約の締結時と更新時には、更新上限の有無とその内容を明示する必要があります。


ステップ3 65歳以降の方針を決める

65歳以降については、会社として最終的な雇用上限を決めておくことをお勧めします。

例えば、次のような制度です。

・65歳を継続雇用の上限とする

・65歳定年とし、70歳まで1年ごとに継続雇用する

・70歳定年とし、75歳まで1年ごとに継続雇用する

・会社と本人が合意した場合に限り、一定年齢まで再雇用する

年齢層が高く、経験者に長く働いてもらいたい会社であれば、定年自体を65歳や70歳に設定し、その後の継続雇用期間を最長5年間とする方法も考えられます。


例えば、『65歳定年、70歳まで1年更新』とすれば、65歳までは無期雇用として安定的に勤務してもらい、定年後は毎年、仕事内容や勤務条件を確認しながら継続雇用できます。


1年契約なら毎年自由に終了できるわけではない

有期契約にすれば、会社が毎年自由に契約を終了できるわけではありません。


契約を何度も更新している場合や、本人が次回も更新されると期待することに合理的な理由がある場合には、会社による雇止めが認められないことがあります。


そのため、契約更新の判断基準は、できるだけ具体的に定めておく必要があります。

例えば、次のような項目です。

  • 契約期間満了時の業務量

  • 従業員の勤務成績や勤務態度

  • 業務遂行能力

  • 健康状態

  • 担当業務の進捗状況

  • 会社の経営状況

  • 従事している業務の必要性

また、「本人が希望する限り更新する」「特に問題がなければいつまでも勤務できる」などと説明しておきながら、突然契約を終了すると、更新への合理的期待が認められる可能性があります。


最終年齢や更新回数の上限を設ける場合は、就業規則と労働条件通知書の両方に明記し、採用時または定年後再雇用の開始時から本人に説明しておくことが大切です。


5年を超える有期契約には無期転換の問題もある

同じ会社との有期労働契約が通算5年を超えて更新された場合、従業員には無期労働契約への転換を申し込む権利が発生します。これは定年後の再雇用者も原則として対象です。


例えば、60歳から1年契約を繰り返し、65歳以降も契約を更新する場合、5年を超える契約を締結した段階で無期転換申込権が発生する可能性があります。


本人が無期転換を申し込めば、会社は原則として拒否できません。

ただし、会社が都道府県労働局長から「第二種計画認定」を受けている場合、定年後に引き続き雇用される一定の労働者について、無期転換ルールの特例を適用できます。

第二種計画認定を利用しない場合は、

  • 定年後の継続雇用を5年以内とする

  • 70歳や75歳などの最終年齢を明確にする

  • 無期転換後にも適用される定年制度を別途検討する

など、雇用の終期を見据えた制度設計が必要です。


従業員10人未満でもルールの整備は重要

常時10人以上の従業員を使用する事業場には、就業規則を作成し、労働基準監督署へ届け出る義務があります。


一方、常時10人未満の事業場には、法律上の就業規則作成・届出義務はありません。

しかし、義務がないからといって、何も決めなくてよいわけではありません。


定年、継続雇用、契約更新、休職、退職などの重要なルールを明文化しておかなければ、問題が発生した際に、会社と従業員の認識が食い違います。


少人数の会社こそ、個人ごとの口約束ではなく、共通の基準を作っておくことが重要です。


就業規則を作成した場合は、従業員がいつでも確認できるよう、書面の交付、事業場への備え付け、社内システムへの掲載などの方法で周知します。


定年制を新たに導入するときの注意点

これまで定年制がなかった会社が、新たに定年制を導入すると、既存従業員にとって労働条件の不利益変更となる可能性があります。


特に、すでに新しい定年年齢を超えている従業員や、定年が近い従業員に対し、新制度を直ちに適用するのは慎重に検討しなければなりません。

制度を導入する際は、

  • 制度を設ける目的

  • 定年年齢

  • 定年後の継続雇用制度

  • 継続雇用後の労働条件

  • 最終的な雇用上限

  • 現在勤務している従業員への経過措置

を整理し、従業員へ丁寧に説明する必要があります。


対象者から署名をもらうだけで、必ず不利益変更が有効になるとは限りません。

本人の自由な意思に基づく同意であることや、変更内容を十分に理解できる説明が行われていることが重要です。

定年に近い従業員については、個別面談を行い、経過措置や適用時期を含めて検討するのが適切です。


まとめ

定年制は、単に従業員に退職してもらうための制度ではありません。

会社と従業員の双方に、

  • 何歳まで現在の雇用が続くのか

  • 定年後はどのような働き方になるのか

  • いつ労働条件を見直すのか

  • 最終的な雇用上限をどうするのか

をあらかじめ示すための制度です。


特に小規模企業では、経営者と従業員の関係が近いからこそ、話しにくい問題が先送りされやすくなります。

「今は問題がないから」と曖昧なままにせず、会社の人員構成や将来の採用計画を踏まえて、定年と継続雇用のルールを早めに整えておくことが大切です。


定年を60歳として65歳まで1年ごとに継続雇用する方法のほか、年齢層が高い会社では、65歳または70歳を定年とし、その後の継続雇用に明確な上限を設ける方法もあります。


実際の制度設計では、現在勤務している従業員の年齢、これまでの説明や雇用慣行、無期転換ルールとの関係も確認しなければなりません。


会社ごとの状況に合わせて、無理なく運用できる制度を検討しましょう。

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